創作ごった煮
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二日目
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一日十五分縛りで思い出話や思い出したことを書いたそのまま。
twitter診断メーカーより。「「夕方のコンビニ」で登場人物が「噛み付く」、「友情」という単語を使ったお話を考えて下さい。」
いまいちお題に沿えてません。Ustreamでこっそり配信しながら書きました。
手に持った肉まんが熱くて、まちるの買ったアイスをひとくち貰う。こんな人畜無害な顔をして、まちるは意外と嫌いなものが多い。ウキのことはだいたい何でも許すけれど、まちるは親しくない相手にこうやって一口渡すのも、きらいだ。ウキは一口もらったからといって、代わりに肉まんをあげようとはしない。これも、甘いものを食べてるときに口直しみたいに甘くないものを食べるのが嫌いだと知ってのことだ。冷たい冬の風が、春の暦を無視している。ウキはぶるりと肩をすぼませ、マフラーの位置を直す。
「桃のにおいがする」
まちるが唐突に言ったので、ウキはスンと音をたてて空気の匂いを嗅いだ。……?「わかんない、」不服な気分で四方に鼻を動かすが、やはり何の匂いもしない。冬の夜の冷え切った空気で鼻が痛くなるだけだ。
「ウキ、鼻悪くなったんじゃない」
「そんなことない、まちるの嗅覚がへんなんだよ」
「そうかなあ。」
「ぜったいそう、花の匂いもしないもん。肉まんのにおいしかない。」
それは肉まん食べてるからだよ、まちるは笑った。ウキの口元には白く息が見えるのにまちるのそれはない。こんな冬に、アイスなんて食べるから。中途半端な田舎では、深夜営業の店が遠くに見える。湿気が少なくても、排気ガスやら見えない汚れがたくさんある。遙かできらきら光る明かりが、霧めいて濁る。ウキは、竜宮城を思い出していた。あそこでは、時間を忘れて人々が踊り歌っている。それならここは海だろうか。まちるとウキは、サカナだろうか。車の一台もない道路で、二人律儀に信号を守って止まる。肉まんのごみはまちるが預かった。くるま、くるま、歩行者の順に切り替わるいつもの信号で、今はまだひとつめの車用信号。
ただ待っているのも暇だったので、ウキはまちるの手をとった。まちるの手は指が長くてきれいだ。そのせいかは知らないが、まちるは手袋も嫌っている。ウキは指が丸くて短いから、手袋の指先がよく余る。買ってもらったミトンの手袋は、微妙なピンク色だったけれどお気に入りだ。
ぶあつい手袋の布越しで、まちるの手が冷たいかどうかもわからない。
まちるが突然ウキの髪に鼻をうずめた。嫌なこともないので、頭を動かさずに目だけで様子をうかがう。車が一台だけ走り抜けてゆく。
「……どうしたの?」
ぽーぽーぴー、歩行者用の信号に変わってもまちるが動かないで、また信号が変わってしまったので仕方なく尋ねる。ウキはこうやって時間を少しずつ無駄に過ごしたりするのが得意だし好きだが、まちるは無駄に過ごす時間もまとめてとるほうが多い。頭のうえでスーハーと深呼吸がされる。灰色に染めたウキの髪が、街灯で白くみえる。
「桃のにおい、ウキかと思って。」
「桃のシャンプー使ってないよ」
「知ってる。整髪料とかも使ってないしなあ。」
「女子力がにじみ出たかな。」
「違ったから大丈夫。」
「ええーざんねん。」
じゃあ何のにおいだったのかなあ。ウキの言葉にさあ、と答えて、まちるは今度は信号が変わるのをじっと待つ。冷たい空気のせいでウキは頬が痛いというのに、まちるはいつもと変わらない顔をしている。筋肉も、皮下脂肪もたいしてないくせに。もう一台だけ車が通ったあと、歩行者用の信号が青になる。高いわりに耳障りじゃない信号の音がウキはわりと好きだった。歩き出すときには二人自然に手を離す。歩くときに手を繋ぐのが歩きにくくてきらいなのは、まちるではなくウキだった。
歩き出したとき、果物の甘い匂いが鼻をかすめたが、一瞬で失ったのでウキは黙っていることにした。まちると同じ匂いを嗅いだのかはよくわからなかった。
陽気な神父の居る教会の、道に面していないほう。そこには略式結婚自販機というものがあった。
二人の名前を入力し、誓イマスなんてボタンを押せば、レシートみたいな結婚証明書とプラスチックのフリーサイズ指輪がガチャガチャの容器で出てくる。若いカップルが遊びで使うものだ。けれど、金も結婚の資格もないおれたちにはそれが唯一の方法に思えた。
15歳、中学三年生。
このあたりには高校がなく、二人は来週には別の町の別の学校に通っている。それだけではない。おれたちは男同士だったし、片方には戸籍すらなかった。おれは真正のゲイで女に興奮したこともない。生まれながらにして、結婚に向いてないのだ。かなしいことではなかった。それは二人の見解のつもりだが、相手がほんとうにそう思ってるかはわからない。少なくともおれにはちっとも悲しいことではない。
結婚自販機に金を入れたけれど、おれたちは明日で別れることにしていた。半分に割いた結婚証明書も、いつのまにかレシートと一緒にごみ箱に消えるだろう。フリーサイズの指輪は、おれが女ものに見えるほうを受け取った。相手はバスケットをしていて、手がでかかったのだ。
もちろんおれも、15とはいえ成長期を迎えている。女ものの指輪は小指の先に引っかかるくらいで、二人して薬指には入りそうもなかった。ちゃちな指輪は力をいれたらすぐに壊れそうだったから、出てきたときのようにケースに入れてポケットにしまう。誓いのキスは一度して、けれど何に何を誓ったのかも不明瞭なまま。
別れ際に渡された男側の指輪はおれにはすこし緩くて、結局定位置の決まらないふたつは割れたか捨てたかしてどこにもいなくなった。
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