創作ごった煮
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twitter診断メーカーより。「「夕方のコンビニ」で登場人物が「噛み付く」、「友情」という単語を使ったお話を考えて下さい。」
いまいちお題に沿えてません。Ustreamでこっそり配信しながら書きました。
カラスの鳴き声がする。電線を見上げると、スズメなのかなんなのか、よく知らない鳥が並んで止まっていた。中途半端に乱れた列が不快だ。そうやって上を見上げることで、隣を歩く歩幅の合わない人間との落ち着かない無音をやりすごしていた。
いつもなら、おれの隣を歩くのは友人の桂木のはずで、こんな沈黙を保つことも、歩幅が合わないことだってない。俯いたまま早足で追ってくる小奇麗なローファーも、揺れるプリーツスカートも、なにもかもがおれを不快にさせていた。
この女は、どうやらおれを好きらしい。
なんでおれなんかを。そう思うのは謙遜ではない。人見知りだし人嫌いだし、こんなふうに隣を歩いても歩調を合わせようとすらしない。外見がそこそこ整っていて、勉強も運動も苦手ではない、というのがおそらく全ての理由だろうが、それにしたってこんな性格のやつを好きになることはないだろうに。女はおれを好きだということを桂木に告げ、気を使った桂木は「用があるから先に帰る」「この子送ってあげなよ」と言い残して去って行った。
桂木はバカだしチビだが、明るくて優しい。どう考えても、おれより桂木を好きになるべきだし、そっちのほうがしあわせになれる。勉強道具が乱雑に詰め込まれたスポーツバッグをかけなおして、はあとため息を吐いた。少し先のコンビニの表で、桂木は一人アメリカンドッグに噛みついていた。このまま目の前を通り過ぎるのは、おれが嫌だ。
足を止めれば早足の女はおれより一歩二歩前に出て止まる。俯いていた顔をおずおずと上げてこっちを見た。リップグロスがてらてらと光っている。夕焼けの逆光。何度も無視した声がまた聞こえるまえに口を開く。
「で、わかっただろ。何べん桂木に頼んで一緒に帰ろうとおれはほだされないし、あんたの顔だって覚えようと思わない。あんたがおれを好きってのも意味わかんない。付き合ったら、好きな相手になら優しいだろうとか、トクベツなカオとか、そんなんもありえない。あったとしても、それがあんたになることは絶対にありえない。」
「っじゃあ、どんなコが好き!?あたしがんばるから!」
「はあ?努力でなんとかなる部分じゃねーよ、あんたにはわかんないだろうけど。ここまで付き合ってやったことと、早めに見切りつけさせてやっただけ、優しいと思ってくれよ」
その優しさも、あんたじゃなくて桂木のために生み出したもんだけど。最後は飲み込んで、女を見下ろす。自分なら、すきになってもらえる。相手を変えてみせる。そんなことを、どうして思えるんだか。
去って行った背中を見送ることはない。夕日に目が焼ける。おれはいつまでたっても光に背を向けている。何と言ったら、桂木はおれに女を紹介しなくなるだろうか。何と言ったら、桂木とただ一緒に帰る安寧を守れるだろうか。
いつか現実が牙を剥いたとき、噛みつかれるのはおれだけでいい。ただ その牙が桂木のものでないことだけを願っている。アメリカンドッグが彼の口に飲み込まれ、串が燃えるごみに捨てられる。正面には夜が見える。桂木がこちらに背を向ける。桂木の歩幅は一人の時には小さくて、距離がなければすぐに追いつくことができる。さっきの女の歩幅なんて、すっかり気にもしなかったのに。
空の端から夜がやってくる。夜に向かって桂木を追う。桂木がこんなふうにおれの前に居てくれたらなあ、と思って、少し笑った。
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