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創作ごった煮
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 陽気な神父の居る教会の、道に面していないほう。そこには略式結婚自販機というものがあった。
 二人の名前を入力し、誓イマスなんてボタンを押せば、レシートみたいな結婚証明書とプラスチックのフリーサイズ指輪がガチャガチャの容器で出てくる。若いカップルが遊びで使うものだ。けれど、金も結婚の資格もないおれたちにはそれが唯一の方法に思えた。
 15歳、中学三年生。
 このあたりには高校がなく、二人は来週には別の町の別の学校に通っている。それだけではない。おれたちは男同士だったし、片方には戸籍すらなかった。おれは真正のゲイで女に興奮したこともない。生まれながらにして、結婚に向いてないのだ。かなしいことではなかった。それは二人の見解のつもりだが、相手がほんとうにそう思ってるかはわからない。少なくともおれにはちっとも悲しいことではない。
 結婚自販機に金を入れたけれど、おれたちは明日で別れることにしていた。半分に割いた結婚証明書も、いつのまにかレシートと一緒にごみ箱に消えるだろう。フリーサイズの指輪は、おれが女ものに見えるほうを受け取った。相手はバスケットをしていて、手がでかかったのだ。
 もちろんおれも、15とはいえ成長期を迎えている。女ものの指輪は小指の先に引っかかるくらいで、二人して薬指には入りそうもなかった。ちゃちな指輪は力をいれたらすぐに壊れそうだったから、出てきたときのようにケースに入れてポケットにしまう。誓いのキスは一度して、けれど何に何を誓ったのかも不明瞭なまま。
 別れ際に渡された男側の指輪はおれにはすこし緩くて、結局定位置の決まらないふたつは割れたか捨てたかしてどこにもいなくなった。





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