創作ごった煮
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別れ話を問い詰める高校生
いまわたしものすごく失礼なことを言ってるな、と思ったけど止まらなかった。理性が脳みそにあるなら、涙が生まれるあたりから言葉がぽろぽろ出てきている。夕日が眩しくってしかめた顔に涙なんて浮かぶ気配もない。
湯河原はうんと嫌そうな顔をしていた。しかめっ面、対、しかめっ面。笑わせる気の無いにらめっこをしている。
「なんでわかれたの」
発音は明瞭、放送部仕込み。でも脳みそを通ってないから変換できてない、自分でも理解できてない空っぽの言葉。
関係ないだろ、彼は言う。関係ないだろ、五木には。そのとおり。なのに涙の生まれるところはわたしのゆうことを聞いてくれない。
「なんでわかれたの、お似合いだったのに。なんでいやになったの。なにがいやになったの。」
ずば抜けてキレイな顔してるわけじゃないけど、さっぱりしててキリッとしててかっこいい湯河原。スポーツマンでクラスのヒエラルキーでだって上にいる。そんなやつはもちろんマネージャーのカワイイ子か、じゃなきゃ一緒に騒げる元気な子が似合う。
彼女はどっちでもなかった。ちょっと大人しくておしとやかで、でもカワイイ子。同じ世界に生きて育ってはいなそうなのに、接点を見つけたらぴたりとはまったお似合いの子。
お似合いだった。なのに別れた。理想の彼氏と理想の彼女と、それを見て勝手に満足するわたし。
「なんで、」
失礼だ、こんなの。
わたしの希望通りじゃなくて不満で、文句を言っている。お人形遊びがしたいわけじゃないのに。お人形にしてたいわけじゃないのに。彼も彼女も人間なのに。
涙をこらえるみたいに唇を引き締める。涙腺から流れるのは言葉じゃなくて涙であるべきだった。でも視界ははっきりしてて、茜色に三角をつくる雁まで見える。
湯河原は息が見えそうなほどきっぱりため息を吐いた。
「おれはおれのために、あいつはあいつのために、おれたちは付き合ってた。お前のためじゃないよ、五木」
「それはそうだけど、」
「おれたちが別れた理由に納得したいお前のために、なんでおれが必要ないものを見つけてお前にやらなきゃいけないんだよ」
苛立っている。ふつうのひとならそりゃそうで、頭は諦めろと言ってる。これはわたしの子供の部分だった。もっと二人を見ていたかった、じゃなきゃ二度と思い出したくない。
一度手に入ったのに逃げてしまったものを、殺してしまいたい。わたしのものじゃないのなら。わたしのふたりじゃないのなら。
わたしのものじゃないもので出来た箱庭で、わたしに支配者権限なんてあるわけない。鞄を持ち上げた拍子に動いたイスなんて気にしないで、湯河原は足音の前に鼻をひとつ鳴らした。扉を開く。いつもは犬みたいな顔をしてるくせに、影が彼をいたちのように見せていた。
「欲しいだけなら、奪いたいわけじゃないならさ」
目の色さえ分からない。太陽が沈んでく。長引かないはずの話は案の定で、けれど蛍光灯を点けるべきだったと思った。湯河原の薄い唇がつり上がった。
「せめて関係者になってから言えよ」
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