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創作ごった煮
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かみさまがいない、と、まるで大問題かのように大槻が言った。白いスカートが風になびいて、肌色の足がきちんと地面についているななんて思った。

「かみさまがいないの」
「かみさまって、だれのこと」

大槻は、よく人にあだ名をつける。ティラノサウルスとか、八月のさかなとか、金魚鉢とか、マグカップとか。よくわからないから電波扱いもされている。だから、かみさまも誰かのあだ名だろうと見当をつけた。けれど、違ったらしい。首を振った大槻の、髪の毛がさらさらと揺れる。
電波って、かわいいから許されるのだ。残念ながら、大槻は中の中、ふつう。髪の毛は綺麗だけど足は太いし、にきびもいくつか。敬遠されてる。大槻もそれに気づいてる。

「かみさまは、かみさま。今まで道の先にいたの。でも、見てなかったら道が変わってて、いなくなっちゃった。どうしよう。」
「かみさまがいないと、何が困るの。」
「道がわからないの、目的地がなくなったの。」
「目的地がなくて、困るの? べつに、よくない?」
「困るよ。」

ほんとうに、心底困ったような顔をして、立ちすくむ。大槻にとって、かみさまは道しるべだったんだろう、よくわからないけど。でも、しばらく見てない道しるべは、どれだけ必要なのか。
それをそのまま言うと、大槻はうつむいた。その頭にはつむじがふたつ。
があーと鳴く鳥が海の上を飛んでいる。

「かみさまがいないと、わたし、やることがない。」
「かみさまってどうせ作ったんでしょ、頭の中で。また作れば。」
「かみさまはいつのまにか居たんだ。」
「じゃあいつのまにか戻ってくるんじゃない。」
「いま居て欲しいのに、いつかじゃあそんなのかみさまじゃない」
「そう」

ふーんへえほう。どうでもいいのだ、そんなこと。
大槻はきっと、助けてもらいたい。わたしがなにか優しい言葉を言って、なんだろう、わたしが一緒に歩いてあげるとかなんとかきっとそんなの、そんな言葉を待ってる。
でも知らない。
電波って言われて、遠巻きにされて、とくべつかわいくなくて、頭もそんなによくなくて、スカートにしわがついてて、いじめられてないけどひとりぼっちの大槻。

「いないなら、大槻にはかみさまが必要なくなったってことだよ。きっと。」

話しかけられたら応える。あいさつされたらあいさつする。
どうでもいいから、てきとうにこなす。それだけだ。
ねえ大槻。わたしは避けないだけで、一緒にいたいなんて思ってないんだよ。たすけてあげたいとか、手を伸ばしたいとか、考えたこともないんだよ。
返事はするけど、ほんとうは全部無視してるのとおんなじだ。わたしが信じてないかみさまのことも、ぜんぶ。どうでもいいから、慣性で返事をしてるの。
ほかがマイナスだからプラスに見えるのかもしれないけど、わたしがゼロなんだよ。大槻、ねえ、わたしあんたといて楽しかったことない。どうでもいい。どうでもいいときだけ一緒にいる。どうでもいいのに、そろそろ面倒になってきちゃったよ。
ああああ。でもいま突き放したら刺したりしてくるかなあ。めんどくさいなあ。
かみさま、かみさまねえ。あんたの道の先にいたならろくなもんじゃないだろうに。いったい何になりたかったんだ、かみさまを目指してさ。
があーがあー鳴く鳥が、海に向かっていく。コンクリート舗装の道はゆるやかにカーブしている。足を止めると、大槻は数歩先に出た。行ってしまえ、そのまま、遠くに。



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