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創作ごった煮
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プロローグ程度









 朝、後ろから聞こえた男の声に、躊躇い無く息を吐く。この高校の男女比は6:4。女子の方が若干少ないとは言え、ほぼ同数存在している。それだというのに。後ろからの声を無視していつものように前に進んでいた椙田は、とうとう捕まれた鞄のせいで足を止めた。
 もういちど、聞こえるように大きく溜息。学年がひとつ上がってからすっかり日常と化してしまったそれに、もはや逃げる幸せもない。すぅーぎたっ、と、音符でもつけそうな具合に後ろの男は止まった椙田の前に躍り出た。

「おっはよ、椙田っ! 今日もかわいいなっ」

 誤解がないように言っておくと、椙田は男だ。身長も高くなく、しかし「かわいい」と呼ばれるような低身長でもない。良くも悪くもふつう。顔立ちだって、やや目つきが悪いが出会い頭に怯えられるなんて愉快なことは起きない。かわいいか格好良いか、と二分しなければならないのなら、格好良いの方に分けられるだろう。
 眉間にしわを寄せて、椙田は時崎を見やる。むしろ、「かわいい」は時崎のほうだ。身長は高めだが、丸い目と人なつこい雰囲気で大型犬のように見える。椙田はまかりまちがってもそんなことは思わないが、女子にそんなふうに言われているのを何度も見た。隣に並んだ時崎にあいさつを返さないまま、止まっていた足を再度動かす。

 時崎は、椙田のことが好きなのだという。
 同性愛者の存在は知っていても、自分に関係がないから許容していた。自分を好きだという男にはじめは冗談だと思ったし、冗談めかして言うその言葉に今でも性的なそれは感じていない。気持ち悪いことは悪いが、出会い頭に尻尾を振り顔をなめてくる大型犬のうっとおしさと同じようなものだ。椙田に好きだと言うこと以外、しゃべり方も態度も気に障りはしない。放置、が椙田の選んだ返事だった。友人としてなら、これからもうまくやっていける。

 やいやいとなにやら一方的に話す時崎を無視しつつ、よく晴れた日光の暖かさを感じる。心地よく涼しい風。どうでもいいことは、考えないに限る。椙田はそう思って、今日あてられるだろう数学の宿題のことを思い返していた。






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