創作ごった煮
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生まれつき、僕の両目は光を映さなかった。
その代わりに耳は良く、笛を吹いた。いろいろな声を聴いているうちに知恵もついて、ミレイアの知らないこともよく知っている。
潮風が頬を撫で、硬い地面が靴音を立てる。
いつも腰を下ろす木箱に、ミレイアが座らせてくれた。懐から笛を出す。
ミレイアの姿を、僕は知らない。
けれど瞼の裏に、その姿は鮮やかに浮かぶ。
すう、息を吸って、笛に空気を送った。ミレイアの靴が、地面を叩く。
軽やかなそれは僕の世界に大きく響く。
喧騒を忘れて、森は静か。湿った緑の匂い。僕の笛に、ミレイアが踊る。
この音楽が止むまでは、世界は僕ら二人きりだ。
いつまでも奏でて居たいけれど、それではミレイアが倒れてしまう。
適当な頃合で曲の終わりを奏でて、ミレイアの足が止まる。そして、一礼。
いつものように拍手と、ざわめき。わずかながらのお金を貰う。
ミレイアは美人らしいから、いつもここで彼女を褒めそやす声がする。
続けてきた毎日と同じはずなのに、何故か違和感を感じた。
カッ、カッ、
少し離れた場所から、規則正しく鹿爪らしい靴音がしていた。近付いてくる。
ミレイアの腕を掴んで、その音から離すように背に隠した。
「リカルド?」
「しっ」
靴音は複数。人混みを分けて、近付いてくる。ミレイアが小さく息を呑んで、服を掴んだ。姿を捉えたらしい。
靴音が、目の前で止まる。
「こんにちは、お仕事お疲れ様です」
出来るだけ平静を保ち、声をかける。
この靴音は、きっと、軍靴だ。
目の前の軍人は、耳が聞こえないかのように無視をして、何かを取り出す。紙の音だ。
「ミレイアとリカルド、で、合っているな?」
不遜な物言いにむっとするが、それを表に出してはいけない。
ミレイアが、怯えたように服を掴んでいる。僕が、守らなくては。
ゆっくりと頷いて、相手の反応を待った。港はいつものように喧騒に包まれているが、僕らの周りはいやに静かだ。波の音と、ウミネコの鳴く声がする。
バサ、紙を広げる音がした。ミレイアが息を呑む。
生憎僕は何が見せられたかわからないので、後ろを向いた。
「ミレイア、なに?」
「あ、あのね」
ミレイアの声をさえぎるように、ごほんと勿体つけた咳。
さきほどの軍人が説明するようだ。
「ミダレスト王が、貴兄らの噂をお聞きになり、是非王宮で披露してもらいたいとのお言葉だ!光栄であろう」
ミダレスト王、というと。
「海の向こうの、大国の…?」
呟くと、ふんと息を吐く音。
「偉大なるミダレスト王が、他におわせられるか。」
後ろで、ミレイアが小さく「どうしよう、リカルド」と呟いたが、僕たちにはどうしようもないだろう。
証拠のように、軍人はがさがさと紙を仕舞い、言い捨てた。
「出立は明日の正午。王をお待たせするようなことになるなよ。」
その代わりに耳は良く、笛を吹いた。いろいろな声を聴いているうちに知恵もついて、ミレイアの知らないこともよく知っている。
潮風が頬を撫で、硬い地面が靴音を立てる。
いつも腰を下ろす木箱に、ミレイアが座らせてくれた。懐から笛を出す。
ミレイアの姿を、僕は知らない。
けれど瞼の裏に、その姿は鮮やかに浮かぶ。
すう、息を吸って、笛に空気を送った。ミレイアの靴が、地面を叩く。
軽やかなそれは僕の世界に大きく響く。
喧騒を忘れて、森は静か。湿った緑の匂い。僕の笛に、ミレイアが踊る。
この音楽が止むまでは、世界は僕ら二人きりだ。
いつまでも奏でて居たいけれど、それではミレイアが倒れてしまう。
適当な頃合で曲の終わりを奏でて、ミレイアの足が止まる。そして、一礼。
いつものように拍手と、ざわめき。わずかながらのお金を貰う。
ミレイアは美人らしいから、いつもここで彼女を褒めそやす声がする。
続けてきた毎日と同じはずなのに、何故か違和感を感じた。
カッ、カッ、
少し離れた場所から、規則正しく鹿爪らしい靴音がしていた。近付いてくる。
ミレイアの腕を掴んで、その音から離すように背に隠した。
「リカルド?」
「しっ」
靴音は複数。人混みを分けて、近付いてくる。ミレイアが小さく息を呑んで、服を掴んだ。姿を捉えたらしい。
靴音が、目の前で止まる。
「こんにちは、お仕事お疲れ様です」
出来るだけ平静を保ち、声をかける。
この靴音は、きっと、軍靴だ。
目の前の軍人は、耳が聞こえないかのように無視をして、何かを取り出す。紙の音だ。
「ミレイアとリカルド、で、合っているな?」
不遜な物言いにむっとするが、それを表に出してはいけない。
ミレイアが、怯えたように服を掴んでいる。僕が、守らなくては。
ゆっくりと頷いて、相手の反応を待った。港はいつものように喧騒に包まれているが、僕らの周りはいやに静かだ。波の音と、ウミネコの鳴く声がする。
バサ、紙を広げる音がした。ミレイアが息を呑む。
生憎僕は何が見せられたかわからないので、後ろを向いた。
「ミレイア、なに?」
「あ、あのね」
ミレイアの声をさえぎるように、ごほんと勿体つけた咳。
さきほどの軍人が説明するようだ。
「ミダレスト王が、貴兄らの噂をお聞きになり、是非王宮で披露してもらいたいとのお言葉だ!光栄であろう」
ミダレスト王、というと。
「海の向こうの、大国の…?」
呟くと、ふんと息を吐く音。
「偉大なるミダレスト王が、他におわせられるか。」
後ろで、ミレイアが小さく「どうしよう、リカルド」と呟いたが、僕たちにはどうしようもないだろう。
証拠のように、軍人はがさがさと紙を仕舞い、言い捨てた。
「出立は明日の正午。王をお待たせするようなことになるなよ。」
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