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創作ごった煮
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時間のお題(二の舞姫さま)

1.忘れて夢中




海の向こうには、大きく豊かな国があるというけれど、私たちには関係なかった。
そこそこに栄えた港町で、弟のリカルドと二人。
弟の吹く柔らかな笛の音に、私は広い草原を見る。豊かな花畑を、煮え滾る溶岩を、寄せては返す荒波を見る。私はそこで、ゆったりと踊る。
港で踊るその姿は、小さいながらも評判を呼び、たった二人の家族しかいない私たちを、十分に養った。

リカルドは、目が見えない。私が居ないと、まともな生活を送るのは難しい。
けれど、その不足を補って余りあるほど素晴らしい笛の才能を持っていた。
元来引っ込み思案な私が、人前に出て踊り、あまつさえお金を貰えるというのは、弟の笛の音があるからだ。

「ね、リカルド。今日は何にしましょうか」

手を繋いで、港までの道を歩く。
港は拓けているし、外から補給のために立ち寄る海兵たちが、良いお客になる。
リカルドは、優しい顔立ちを更に穏やかに緩めて、「そうだね、」と呟いた。
たった2つしか離れていない姉弟だけど、まだ幼さの残るリカルドの優しい微笑と、落ち着いた低い声、優しい性格がとても好きだった。
見えていない目で、私を捉える。

「昨日は、春の花畑だったよね。今日は、どこに行きたい?」

音楽をさっぱり知らない私のために、リカルドは音楽用語を使わない。
ちゃんとした師匠が居るわけではなく、ほとんどが即興だから、リカルドも知らないのかもしれないけど。ふふ、笑って、繋いだ手をぎゅうっと握った。

「そうね、今日は森がいいわ。泉があって、静かで、綺麗な」

「水辺で踊るのかい?」

「ええ。妖精と踊るの。素敵でしょう?」

地面は背の低い草に覆われていて、可愛らしい花が咲いていて。リカルドは地面に座って、利口な鹿に寄りかかっているのよ。
我ながら、これはとても素敵な想像だと思った。リカルドも、少しの間目を伏せて想像してから、「いいね」と笑った。

「じゃあ、決まり!ああ、早く聞きたいわ、リカルドの笛の音を!」

「僕も、ミレイアの踊りが楽しみだ」

そう言いながらも、足はゆっくりと進む。港までは、もう少し。
リカルドのゆっくりした歩幅に合わせて、私たちは、二人並んで歩いた。



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