創作ごった煮
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ジェニファルドの夜歩きの話
いつもは風の音しかしない薄暗い墓地に、珍しく人の気配がしていた。
靴が湿った土と苔とを踏み、剥がす。少しだけ大きな小石が、つま先に当たって墓石に跳ね返った。
「何やってんの」
予想よりも小さな背中を見下ろして、ジェニファルドは足を止めた。オズの町の外ではあるけれど、町を照らす月の光は墓地にも届いている。振り向いた顔は幼い。
初めて見たその少女に、ついいつもの調子で声をかけてしまったことをジェニファルドは内心わずかに悔やんだ。身長も、顔つきも、相手を判断する材料にはならない。彼にとっての赤ん坊の姿で、老獪でプライドの高い種族もいる。声の掛け方ひとつでこの墓場が消え失せることだってあるのだ。
そんな懸念をよそに、こちらを見上げた少女は無感情な顔で口をわずかに開いた。ざんばらに切られた髪が淡く光る。しかしそのまま言葉を発することもなく閉じた。少女の前の土は掘り返されていた。夜の鳴き声がする。わずかに迷って、ジェニファルドは口調を変えずにもう一度声をかけた。
「そこ、死体しかないけど?」
副葬品もないよ。今度は少女は振り向かず、こくりとうなずいた。丸い背をさらに丸めて、穴の深度を確かめる。手袋をはめた手で掘っていたらしく、抉れている程度にしか見えない。
「死体掘り?精が出るね、でもキレイなのは少ないしょ」
ざり。ざり。土の表面が動かされている。ここはそもそも無縁仏ばかりが埋葬されていて、死体は棺桶にも入っていないことが多い。その代わりに、やや深く埋められている。
少女の手では、一昼夜それを続けたとして骨のひとつも出てこないだろう。ジェニファルドは小さく笑って、少女に近寄った。
「あげようか、」
ざんばらな髪がもう一度揺れて、しっかりと目線がかち合った。少女の両目の色が異なることに気が付く。
ポケットに入れていた手を右手だけ出して、親指だけを出して他の指は握る。向きが向きならサムズアップ、それを倒して、首の前を横切るように一閃した。夜の、何者かわからない生き物の声がする。風が吹いて木が揺れた。少女がぱちりと瞬きをする。ぱち、ぱちり。ジェニファルドはにんまりと口角を上げている。
「首から下、一式」
湿った土の匂いがくすぶっている。先ほど剥がした苔は、元の場所に戻るように菌糸を伸ばしていた。向き合ったまま、そろそろこの辺りも掃除しなければいけないかとぼんやり思う。しばらく二人は動かなかった。少女の視線は、ジェニファルドの身体を検分するように滑った。何度か上下した後に、ゆるりと首が振られる。
残念とも思わない声音で「そう」と答えると、少女はまた土を分けるように穴を掘り始めた。掘るなとは言わないし、だからといって手伝う気も起きなかった。石やら枝やら使えばいいのに、なんてのも言わない。とにかく用は済んだ。背中をいつもの丸さに戻して、伸び掛けの菌糸をもう一度踏みつける。
そういえば、死体探しかという質問に肯定はなかった。なにか別のものを掘り起こそうとしていたのかもしれないし、やっぱり死体を漁ろうとしていたのかもしれない。どちらであろうと彼には関係がなかったので、くわぁと欠伸をして、地面を擦るように足を動かして家へと戻った。風は太陽が昇る頃まで吹いていて、土の表面を削る音は探さなかった。
「何やってんの」
予想よりも小さな背中を見下ろして、ジェニファルドは足を止めた。オズの町の外ではあるけれど、町を照らす月の光は墓地にも届いている。振り向いた顔は幼い。
初めて見たその少女に、ついいつもの調子で声をかけてしまったことをジェニファルドは内心わずかに悔やんだ。身長も、顔つきも、相手を判断する材料にはならない。彼にとっての赤ん坊の姿で、老獪でプライドの高い種族もいる。声の掛け方ひとつでこの墓場が消え失せることだってあるのだ。
そんな懸念をよそに、こちらを見上げた少女は無感情な顔で口をわずかに開いた。ざんばらに切られた髪が淡く光る。しかしそのまま言葉を発することもなく閉じた。少女の前の土は掘り返されていた。夜の鳴き声がする。わずかに迷って、ジェニファルドは口調を変えずにもう一度声をかけた。
「そこ、死体しかないけど?」
副葬品もないよ。今度は少女は振り向かず、こくりとうなずいた。丸い背をさらに丸めて、穴の深度を確かめる。手袋をはめた手で掘っていたらしく、抉れている程度にしか見えない。
「死体掘り?精が出るね、でもキレイなのは少ないしょ」
ざり。ざり。土の表面が動かされている。ここはそもそも無縁仏ばかりが埋葬されていて、死体は棺桶にも入っていないことが多い。その代わりに、やや深く埋められている。
少女の手では、一昼夜それを続けたとして骨のひとつも出てこないだろう。ジェニファルドは小さく笑って、少女に近寄った。
「あげようか、」
ざんばらな髪がもう一度揺れて、しっかりと目線がかち合った。少女の両目の色が異なることに気が付く。
ポケットに入れていた手を右手だけ出して、親指だけを出して他の指は握る。向きが向きならサムズアップ、それを倒して、首の前を横切るように一閃した。夜の、何者かわからない生き物の声がする。風が吹いて木が揺れた。少女がぱちりと瞬きをする。ぱち、ぱちり。ジェニファルドはにんまりと口角を上げている。
「首から下、一式」
湿った土の匂いがくすぶっている。先ほど剥がした苔は、元の場所に戻るように菌糸を伸ばしていた。向き合ったまま、そろそろこの辺りも掃除しなければいけないかとぼんやり思う。しばらく二人は動かなかった。少女の視線は、ジェニファルドの身体を検分するように滑った。何度か上下した後に、ゆるりと首が振られる。
残念とも思わない声音で「そう」と答えると、少女はまた土を分けるように穴を掘り始めた。掘るなとは言わないし、だからといって手伝う気も起きなかった。石やら枝やら使えばいいのに、なんてのも言わない。とにかく用は済んだ。背中をいつもの丸さに戻して、伸び掛けの菌糸をもう一度踏みつける。
そういえば、死体探しかという質問に肯定はなかった。なにか別のものを掘り起こそうとしていたのかもしれないし、やっぱり死体を漁ろうとしていたのかもしれない。どちらであろうと彼には関係がなかったので、くわぁと欠伸をして、地面を擦るように足を動かして家へと戻った。風は太陽が昇る頃まで吹いていて、土の表面を削る音は探さなかった。
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