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創作ごった煮
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暖かな部屋。とんとん、包丁の音。薄いクリーム色のエプロンを身につけて、ルーカスは夕食を作っていた。

「いつまで、続ける気だ?」

窓際のゆり椅子に腰掛けて、バーバリーは本を開きつつ尋ねる。部屋には、ふたりだけ。沈黙が流れる。


「そんなことを続けていても、何の意味もないだろう」

まるで本の文章をなぞるように、淡々と。けれどそれが自身に向けられた問いかけだということは、きちんとわかっていた。ルーカスは、切った野菜を鍋に入れる。

「わかっているんだろう、ルーカス」

「そうだね、その通りだ、バーバリー」

落ち着いた声で、ルーカスはバーバリーを見た。被り物のせいで、表情は伺えない。バーバリーは、しかしその見えない表情を見たように溜め息を吐いた。どうしようもない。

ルーカスは、とても正直な人間である。
本当に人間なのかという論は置いておいて、愚直なまでに真面目。
常に落ち着いていて、怒ることを知らないが、その表情は多くを語る筈である。薄いピンクの、安っぽい猫の被り物で、全てを隠してはいるものの。

だから、バーバリーがいくら忠告しようとも、そしてそれを真実だと本人が承諾していようとも、受け入れることは無い。

「お前の反魂術は、成功しないよ。お前の彼女は、戻らない」

トン、トン。再開された包丁の音が止まる。わかっていた。
ルーカスが、この馬鹿馬鹿しい被り物をつけ続けるのは、誰にも一切素顔を見せることがないのは、彼女のためだった。
ルーカスの恋人だった彼女は、とっくに死んでいる。もう居ない。
人には、呪いで外れないのだと言っていた。真実だった。
ルーカスがこれを外せないのは、彼女を思い続けるという呪いに他ならない。
やめることは、できない。それは、彼女がもう戻らないと諦めることだ。

「わかってる、わかってるんだ、バーバリー。きみも、わかっているんだろう?」

「当然さ。お前は、わかっていない。まだ信じている。この世界に、来てしまったから。」

幽霊も、ゾンビも、なんだって居る。そんな世界に、来てしまったから。

「わかっているなら、どうして」

どうして、何度も言うんだい?
静かな口調で、ルーカスは聞く。今まで、何度もこんなようなことは言われてきた。しかし、これからも言われるとなると不思議に思う。バーバリーには、関係ないことだ。

キィ、バーバリーは椅子を揺らした。本を閉じ、膝の上に置く。振り向いたルーカスの、被り物の奥の、見えないはずの目をしっかりと見て。
そして、バーバリーはにぃっと不敵に口角を上げた。


「決まっているだろう、お前のためさ。マイノルーカス」

冗談めかした言葉に、本音は感じない。ルーカスは、被り物に隠れて小さく溜め息を吐いた。苦笑。

(まあ、要は暇ってことだね)

ルーカスの為、という言葉を疑うわけではない。けれど、バーバリーにとっては暇つぶしの延長、世間話と同程度のものだ。

(と、いうことは、これからもまた言われるんだろうな)

別段嫌なわけではない。ルーカスにとっては、それがたとえ真実だろうと、万に一つの可能性を諦めきれないのだから同じことだ。




******
ルーカスは、恋人を反魂するために「誰にも顔を見せない」ということをやっている。恋人が死んでから、ずっと。
ルーカスは今28?29?そのくらいで、幻燈世界に来てから年をとっていない。姿がかわっていない。マイノルーカスは本名じゃない。
恋人が死んだのが25のとき、反魂術を知ったのが26のとき。
被り物は、恋人のもの。変なものが好きだった。着ぐるみを着てバイトしていた。次は恋人の話を書こう。
OZの本編は、主人公である和樹と、あと妹のゆずりはと、バーバリーの物語だから。

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